HOME > ダブルケアから考える家族支援政策

横浜国立大学 相馬直子、ブリストル大学(英国) 山下順子

ダブルケアはなぜ重要か

私たちは、晩産化・超少子化・高齢化が同時進行する郊外都市 横浜において、子育てと介護のダブルケアに直面する女性たちにインタビューをしたり、アンケート調査をするなどして、ダブルケアという新たな社会的リスクの構造とその対応策を研究している。
私たちは、ダブルケアが早晩、日本の大きな社会問題・政策課題になると考える。女性の晩婚化により出産年齢が高齢化し、兄弟数や親戚ネットワークも減少し続けている。現存の介護サービス、育児サービスをやりくりしながら、子育てと親の介護を同時にしなければならない世帯(ダブルケア負担の世帯)の増加が予測される。

仕事と子育ての両立、あるいは仕事と介護の両立が問題とされてきたが、超少子化と高齢化が同時進行する日本のような国では、子育て・介護・仕事の両立問題という、新たな形の「ケアの社会化」が社会問題化し、従来の子育て支援策・高齢者介護政策も見直しを迫られる事態となると考える。
私たちは特に、現在アラフォー(40代前後)の団塊ジュニア女性のダブルケアに焦点をあてて研究している。もちろん、ダブルケアの登場人物は現在のアラフォーだけではなく、少なくとも四世代にまたがる。昭和一桁前世代、団塊世代、団塊ジュニア世代、そして少子化世代の四世代である。中でも、ダブルケアの主人公は、団塊世代と団塊ジュニア世代の両世代といってよい。団塊世代のダブルケア(実の親の介護と孫支援)も大きな問題である。双方のダブルケアの状況は質的にも制度環境的にも異なる。
 

(1) ダブルケアの主人公~団塊世代の女性たち

ダブルケア主人公のひとり目は、団塊世代の女性たちである。この世代は現在、自分の親(義理親)あるいは祖父母の介護と、娘の支援(孫育て)というダブルケアの葛藤や負担を抱えている。
この団塊世代の女性たちをとりまく制度環境は、大きく変化してきた。この世代は、結婚・出産・子育てを、男性稼ぎ主型社会の中で経験し、自分の親が介護の社会化以前に介護してきた姿を見ている。介護保険の制度化がなされ、「介護の社会化」といわれるようになってきたものの、介護の社会化前と後の様相を間近で見てきた世代である。また、現在のような子育て支援が制度化される以前に子育てを一段落させた世代であるため、「子育ての社会化」の前と後の様相も間近で見ている。兄弟数も多い。男性稼ぎ主型の意識と、現在の介護の社会化や子育て支援という制度化のはざまで葛藤を持ちやすい。自分の親と子どもの双方から頼りにされ、かつ、仕事も持っている場合もあり、自分自身の体調や体力も弱りつつある中で、さまざまな期待に応えようとする大変さや大きな負担があり、複合的な支援課題を抱えている。
 

(2) ダブルケアの主人公~団塊ジュニアの女性たち

もうひとりの主人公(私たちの研究の主な対象)は、団塊ジュニアの女性たちである。高齢出産の場合や、親が早くから要支援・要介護の状態になった場合、自分の親(義理親・あるいは祖父母)の介護と、自分の子育てとが、まさに同時進行する。この世代は、男性稼ぎ主型モデルから共働きモデルへの移行期に生き、介護の社会化・子育て支援制度化以後にケアをしている世代である。少子化、晩婚化、晩産化により、兄弟数も少ない。
では、彼女らをとりまくネットワークや支援、負担感はどうか。現在、未だ明らかにされた事のない、ダブルケアの実態を把握すべく、調査を行っている。またこの研究では、今後の支援につなげていけるよう、ケアの定義を拡大し、買い物代行や、電話での安否確認、愚痴を聞くなどの精神的ケアも含め、 現在の政策の対象とならないようなケアへの関与の把握を試みている。
私たちの調査研究からは、インタビューで紹介したAさん・Bさんをはじめとして、同居ダブルケア・非同居ダブルケア、有職・専業主婦、一人っ子娘のダブルケアなど、ダブルケアのいくつかのパターンが見えてきている。いずれにせよ、彼女たちが非常に大きな負担を抱え、ダブルケアに精神的・体力的・時間的・経済的・家族的に複合的な課題を抱えていることがわかりはじめている。
 

ダブルケア支援策の方向性

日本の社会政策は、介護や育児は家庭内で主に女性によって担われてきたことから、「家族主義的」「家族中心的」と特徴づけられてきたが、介護保険の導入や、市場を活用した保育サービスの拡大がはかられ、介護や育児を「社会化」する動きが進行している。しかし、 介護保険制度のジェンダー分析では、「介護の社会化」と同時に「再家族化」という評価もなされている。また、 保育サービス供給における民間部門の拡大がみられ、「介護の社会化」「育児の社会化」が必ずしも公的部門の役割拡大に帰結せず、家族責任の再強化、市場の役割強化へとつながることを示唆する。昨年、子ども・子育て三法が成立し、「子ども・子育て支援新制度」への移行が全国で進められている。しかし、子ども・子育て支援、介護と別々に考えていては、ダブルケアは対応できない。子ども・子育て支援と、高齢者ケアとを融合させる、新たな発想が求められる。
では、 冒頭のAさんやBさんのようなダブルケア当事者の方、その家族の生活を、どのような考え方から、どのように寄り添いながら支援していくか。まず、ダブルケアへの対応策として、社会的・経済的・精神的なサポートも含めた支援を、地域的に展開する地域社会を再構築しながら、支援する側・される側が循環され、支援者の身分保障もしっかりなされる場を創り出していくことが重要である。
第二に、コミュニティ経済の中で、非営利・非市場領域の世代間連帯や信頼といったネットワークが地域社会に埋め込まれていくよう、世代間連帯や信頼を疑似的にも組み込むような地域支援やネットワークからこそ、ダブルケアへのきめ細かなサポートが可能となると考える。
なぜ世代間連帯や信頼を地域に埋めこむことが重要なのか。それは、住民一人ひとりの行為と連帯こそが、そのコミュニティに、ネットワークや信頼を埋め込み、豊かなコミュニティの基盤となる。いわば世代間連帯や信頼は、コミュニティ経済を支える基盤である。こうして 安心して老い、子育てのできる地域の形成またそのようなコミュニティの持続可能性は、人やお金の流れを支えるこうしたネットワークや信頼の性質に大きく規定される。逆にいえば、ネットワークの断絶(孤立化)や、信頼の欠如(不信・無関心)の蔓延は、コミュニティの持続可能性をはばむものであろう。
 

今後ダブルケア研究を進めていくにあたっての方向性・課題

第一に、子ども・青少年・女性・高齢者の縦割り行政を見直し、世代横断的な視点からの新たな「家族政策」の形成が必要である。加えて、経済格差等の複合的要因も考慮しなくてはならない。
これまでも「多世代交流」「三世代支援」や「宅幼老所」といった「共生型サービス」の推進に関する実践は蓄積されてきた。地域社会でも子どもと高齢者との「多世代交流」が進んでいる。横浜市でもそのような支援や実践が重ねられている。ダブルケア渦中の女性や世帯への支援だけでなく、世代横断的な事業をも円滑に行えるような体制や新たな就労の場づくりで重要なことは何かを事例検討しながら、きめ細やかなダブルケア支援、コミュニティ・ワーカーやあるいはダブルケアマネージャーという、介護だけのケアマネージャーではない介護・子育てに横断的に関わる専門家の要請も重要である。

第二に、性別役割分業にもとづいた旧来型の「家族」ではなく、多様で民主的な家族関係や親密な関係を包摂しながら個人を尊重する支援の可能性である。旧来型の血縁にもとづいた婚姻関係内での家族関係という理解は現代の多様な家族形成とは相いれない。多様な家族や親族を支援する柔軟な発想から、新しい時代の家族政策のあり方を、横浜発で問い直したい。